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2014/08/18

ちいさな一人旅(前篇)

久しぶりに書いてみようと思う。

安西水丸の「ちいさな城下町」という本を読んだ。
一見どうということもない、地味な城下町を、どうということもなくめぐる本だ。

ところで、僕には「お盆休み」というものはなく、夏季に5日間の休みが与えられる。
先週はずっと出勤し、今日と明日を休みに充てたので、暇ができた。
妻は仕事でいない。
お盆休みも開けた平日に、ぽっかりできたひとりの休日、思い立ってひとりで電車に乗って出かけてみた。

今朝、天気予報を入念にチェックすると、午前は雨から次第に曇りになるとの予報。
日差しも強すぎず、気温も暑すぎず、明日も休日という心の余裕、出かけるのはやはり今日しかない。
いつもの出勤時刻とほぼ同じ頃、家を出る。
久しぶりにフィルムのライカも持ち出した。

雨の中を走るバスに、連休明けのためか、元気ない顔が停留所ごとに乗り込んでくる。
新潟駅に着き、自販機で「えちごワンデーパス」というエリア限定の鈍行フリー切符を買う。
新潟駅は現在大改修中で、目的の8番線があらぬところに移動している。
大量の通勤、通学客に逆行し、村上行きに乗り込む。
皆は仕事、学校。しかも連休明け。僕は休み、しかも連休中。
乗り込んだ車内は空いていて、窓の外は雨が降り続く。

新発田を通過する。駅前はきれいに整備され、すぐそばには立派な県立病院が建っていた。
子どもの頃、家族でのドライブの途中で新発田駅に立ち寄り、改札の外から駅弁屋さんを呼んで駅弁を買ってもらったことを覚えている。
おそらく「コシヒカリ弁当」とかいう名前の地味な幕の内だったと思うが、お客もおらず、時間が遅かったこともあり、その時の新発田駅はひどく淋しい印象だった。季節は覚えていない。
今は立ち売りの駅弁屋さんの姿はどこにも見えず、昼間眺める今の新発田駅の印象はすっかり変わっていた。
僕と新発田駅とを繋ぐものは、何もなくなった。

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少し陽が差してきた。
平日の閑散とした電車は、淡々と、面白くなさそうに走る。

坂町という駅に着く。
この駅からは米坂線が分岐しており、鉄道で新潟から山形へ帰省する際にはここで進路を変え、米沢へ向かう。
この坂町には、昔構内に転車台とそれに続く扇形機関庫が残っていて、この駅を通るたびに目を凝らしてその姿を確認していた。
新発田駅で駅弁を買った日もここに立ち寄り、写るはずもないカメラを暗がりの中のそれらへ向けていたかもしれない。
今日、それらは跡形もなくなっていた。

10:03村上着。雨は上がっている。
陽が差し、観光客の姿も見え、さあ着いたぞ!と気分も盛り上がる。
村上では約2時間半とってある。我ながらうまいスケジューリングだ。
盛り上がってはみたものの、行くあてはない。

駅前で獅子舞が乱舞している。
お囃子など周辺の人たちは、獅子舞からやや距離をとり、ちんまりとテントの下でやっているので、獅子舞には失礼だが猿回しのようにも見える。

計画通り、やみくもに歩く。
村上といえば町屋なので、町屋の写真を撮り歩く。
昔からのオンボロ町屋、最近建て替えたらしい新築町屋など様々ある。
やはり町屋は格好いい。
やみくもに歩いた結果、遠くに立派な建物が見えてきた。
観光的にありがたい施設に違いないのでそちらに足を向ける。
暑くて汗が流れる。
立派な建物は、民家だった。
おや案内板があるぞと近寄ってみれば、それはごみステーションだった。
しかし、やみくもに歩くことが目的であるため、士気が落ちることもなく、なおもやみくもに歩いた結果、市役所に着いた。

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村上には大学時代に一緒にバンドをやっていた友達が家を建てて住んでいる。
急きょ彼女の新築の家にお邪魔することにして、車で迎えに来てもらった。
久しぶりに会う彼女は、新発田駅や坂町駅とは違って、何も変わっていなかったように見えた。

結局村上では、町屋の写真をぱらぱら撮って、やみくもに歩いて、市役所のロビーで涼んで、友人宅を拝見し、あわてて駅に戻り、終わった。
何もやることのない旅としては、少々詰め込みすぎたくらいだ。

空腹のまま、また鈍行に乗り、次は津川を目指す。

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