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2010/02/18

独逸阿房列車 本編6

平成21年9月23日。

ハイデルベルクの喧騒から逃れるように、我々はシュパイヤという小さな街に向かう。
あまりガイドブック等では見掛けない、地味な街だ。
S-Bahnという近郊列車で50分ほどの距離。
住民の足として使われるような普通列車であるため、結構混み合っているが、列車の端っこのドアで仕切られた一角には1等席が用意されている。
さすがにこんな近距離で1等席を利用する客は少ないので、我々は悠々と座ることができる。
途中から、革ジャンを着た少年が1等席に乗ってきた。
人を外見で判断するのはあまり良くないのだが、ちょっと1等席には似つかわしくない風体である。素行もあまりよくなさそうな雰囲気だ。
ちらちらこっちを見ている気もしなくもない。
こちらが見慣れぬアジア人だからかもしれないが、気になる。
車内は次第に空いて来て、ドアで仕切られた1等席の室内には我々と少年だけになってしまった。
ドアはガラスで見通しが利くとはいえ、内心警戒せずにはいられない。
万一のことがあったら、僕はいかに自分と妻の身を守ろうか、などと心配をしつつ一人で息詰まる車内を勝手に過ごしているうちに、無事にシュパイヤに着いた。

小さな駅を後に、街の中心部にあるらしい大聖堂を目指す。
歩いてゆくにもちょうどいいくらいの距離のようだ。
街の規模は小さく、落ち着けそうな街でほっとする。
大聖堂に向かって写真を撮っていると、親切なおばさんが写真を撮ってあげるわよ、と声をかけてきてくれた。
絞り込んで、適当に距離を合わせてからM6を渡す。
おばさんは「ちゃんと撮れてるといいんだけど…」と言いながらカメラを返してくれた。
お礼を言って別れる。
この時撮ってもらった写真は、旅行らしい風景を背に二人並んで撮った貴重な写真となり、年賀状などに活用されることになった。

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M6 /Planar T*50mmF2 /Kodak Gold100 /シュパイヤ大聖堂内

大聖堂には誰でも勝手に入ってよいらしく、静かに入ってみる。
ちょうど礼拝が行われようとしていた。
誰がお参りに来た人で、誰が観光客なのかよくわからない。
何人かが前に出てきて、詩を朗読したり、笛を吹いたりするのをぼんやり眺める。
何を言っているのか分からないが、みんな神妙にそれを聞いている。

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M6 /Planar T*50mmF2 /Kodak Gold100 /シュパイヤ大聖堂内

僕の実家には仏壇があり、僕にとって洋風な宗教との関わりは、クリスマスケーキや人の結婚式の時くらいなものだったが、建物内の雰囲気や、笛の音、詩の調べといったものの持つ、なんとなく有り難いような、荘厳な雰囲気は、宗教の東西を問わず共通なところがあるのかもしれない、と思った。
しかし、本当に共通なのはそういったハード的なものではなく、何かを信じないとやってられない人々の心の方の、ソフト的なものなんだろうと思った。
昔から今まで、これからもずっと。

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M6 /Planar T*50mmF2 /Kodak Gold100 /シュパイヤ市街

大聖堂近くの売店で、恒例のピンバッジ(これが今回のお土産の主力である)を買い、古本屋のようなアンティーク屋では、父へのお土産の古い百科事典の切れ端を買った。
通りのテラスででっかいハンバーガーをビールを飲みながら食べていると、たくさん歩いたのと、暑いのとで疲れが出てきた。
家を出てから1週間近くが経ち、毎日歩きづめで、疲れが溜まりつつあるのかも知れない。
ぼーっと通りを眺めていると、恰幅の良いおっさんもおばさんも、みんなでかいアイスクリームをほおばっている。
みんな甘くて大きいものが大好きだ。

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M6 /Planar T*50mmF2 /Kodak Gold100 /シュパイヤ市街

物乞いのおばさんが僕らの席のところにやってきた。
僕が最も苦手とするものだ。
あれこれ考えると、なにも反応できなくなるから、機械的に、条件反射的に、あっち行け、と言う。
こういうときには何も考えずにこう言おうと、決めてきたのだ。
彼女は何度かプリーズ、とか何とか言ったように思えたが、すぐにどこかへ行ってしまった。
ある店の前では、体を痙攣させた青年が施しを乞うている。
眺めていると、彼は、人が自分の前を通った時のみ発症する障害を持っているらしいことが分かった。

駅まで戻ると、遠足帰りの小学生でごった返していた。
ふざける子、集団からすこし距離を置く子、我々に興味を示す子、いろんな子供がいる。
帰りの列車でも、1等席のおかげで我々は座ることができた。
僕はふと、こんな特権的な旅行をしていていいのかしら、と思ったが、何のことはない、たかが電車の座席のことである。
僕はいろいろ考えるのをやめた。

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M6 /Planar T*50mmF2 /Kodak Gold100 /ハイデルベルク市街

ハイデルベルクに戻ると、相変わらず街は賑やかだ。
ドイツではちょうどそのころ総選挙の真っ最中であり、ニュースでもその話題で持ち切りだった。

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